山崎はるかFirst Single『ゼンゼントモダチ』楽曲レビュー
冬コミで寄稿した記事の公開許可が出たので転載します。
初めての人ははじめまして。
そうじゃない人はいつもありがとうございます。
普段はDJだったり、イベントの司会をしたりしているアルダこと加藤基(@arudarinngu)と申します。
今回は山崎はるかさんのFirst singleについて、一曲ごとにレビューをさせていただきます。音楽的教養に乏しいため、かなり印象批評に寄ってしまいますが、ご容赦いただけますと幸いでございます。
それでは、早速参りましょう。
Track.1 ゼンゼントモダチ
作曲:佐藤陽介 作詞:山本メーコ
ゼンゼントモダチはTVアニメ『魔法少女サイト』のED主題歌であり、このシングルのA面表題曲に当たります。作品のイメージに近いダークな雰囲気を漂わせるバンド色の強い楽曲です。
作曲はHifumi.Inc所属の佐藤陽介さんです。
個人的にはどちらかというとElectroよりの曲を書く方というイメージが強かったので、初めて確認した時は驚きました。がっつりとしたバンドの展開でありながら、エフェクトのかけ方やシンセサイザーの響きなど細かい構成する要素に電子音楽っぽさが垣間見え、聞いていると楽しくなれます。
作詞は同じくHifumi.Inc所属の山本メーコさんです。
この方の作詞の特徴は「キミ」と「ボク」関係の表し方の旨さにあると常々感じています。この曲の歌詞には「ボク」は現れませんが、カタカナの「キミ」表記にはセカイ系的な世界自体を二人で完結させる特別なニュアンスを感じさせます。ひたすら「ボク」の視点から「キミ」のことを歌っていると捉えてもいいでしょう。
魔法少女サイトの場合は、彩と露乃の関係になるのでしょうが、その微妙な関係性を「ゼンゼントモダチ」というカタカナのどっちつかずの表現で拾い上げるセンスには脱帽します。その文脈を離れても二人の出会いが即世界の変革を意味する「キミ」と「ボク」の関係性がこんなに説明しやすい楽曲はありません。
筆者は一人称を「ボク」にするほど、この関係性に強い執着を持っているので、そういった点でもかなりポイントの高い歌詞になっています。
山崎はるかさんのボーカルでは、フレーズごとの終わりかたが印象に残ります。全てを出し切るようなブレスの切り方から、切実な叫びのようなイメージを付加させています。
そこから、ふっと力が抜けた「生きたい」が出てくるからこそ、その言葉の力強さが際立つのではないでしょうか。本当の気持ちは、常に叫び疲れてふと出てくる言葉に込められるのです。
Track.2 金曜日のBambi
作曲:伊藤”三代”タカシ 作詞:山本メーコ
こちらはB面となる曲です。新しい世界に飛び込んでいく人のことを子鹿に例え歌い上げる応援ソングです。
この曲から応援されることも多いですが、アーティスト活動を新しく始めた山崎はるかさんの自己応援の歌でもあるんじゃないかなと、個人的には考えています。
作曲は伊藤”三代”タカシさん。この方はがっつりギターのプレイヤーでもあるからか、かなりギターのフレーズが印象深い曲に仕上がっています。本能的にかっこいいというか高揚感を頭に残すフレーズであると思います。
それでありながら、心に染み込むようなじんわりとした暖かさもあるのは、この曲のリズム感の影響が大きいのかもしれません。
この曲はBPM128であり、2の定数であることや人間の心拍に近いなど様々な理由で聞いていて心地いいと感じる人がかなり多いテンポになっています。Pafumeさんの曲や山崎はるかさんの大好きなきゃりーぱみゅぱみゅさんの曲を担当していらっしゃる中田ヤスタカさんがよく使用するテンポでもあります。ある種、構成要素がバンド的でありながら、テンポとしてはエレクトロの要素もあるという点で、ゼンゼントモダチの裏返し的な要素があるのかもしれません。A面B面の相乗効果としては、単なるアップテンポとバラードという二種以上のものを感じさせ、シングルとしてかなり完成度の高い一枚になっていると思います。
作詞はゼンゼントモダチと同じく山本メーコさんです。
応援ソングでありながら、個々の歌詞からそんなに上手くもいってない様子を覗かせるのが、前向きさ一辺倒の曲にはない深みが出てきます。筆者も決して上手く新しい世界を歩んでいるわけではないので、とにかく胸に刺さる言葉が多いです。
子鹿はすぐに歩けるものではなく、たどたどしくその歩みを進めていきます。それでも、前に進むのは先に歩んでいるキミがいるから。A面と同じく「キミ」と「ボク」の関係が現れています。こちらは「キミ」の立場も顔を見せています。応援されるのではなく、応援するアーティストというコンセプトは何個かのインタビューで書かれていましたが、その要素が強く現れている歌詞でもあります。
ゼンゼントモダチで「自分のことを好きになる」という叫びを想起させる「自分を信じてみて」の言葉には、2曲は別のようでありながら、一体であるということを強く感じさせます。
こちらの山崎はるかさんの歌い方は語りかけるような、そして時には弱々しい、演技的な歌い方をしています。山崎はるかさんの演技としては、少年の演技をする時の声質に近いボーカルで歌っています。まだ、成熟しきっていない未完成の人間の気持ちが伝わってくるこの歌い方は、山崎はるかさんのもつ声質がとても活きていると思います。
そういったボーカルディレクション的にも聞き所の多い楽曲なので、たくさん聞いてください。
いかがでしたでしょうか。
作曲、作詞、ボーカルディレクションの3点を中心にレビューをして見ました。
楽曲の楽しみ方はもちろん聞くのが第一ですが、シングルごとアルバムごとの曲同士の関係性を考えてうだうだすると今まで見えなかったことが急にわかった気がしてきてとても楽しいものです。
なかなか時間を取るのが難しいですが、ゆっくりシングルやアルバムをインストまで含めて順番に最後まで、一枚として聞いてみると意外な発見があるかもしれませんよ。誰かの宣誓が聞こえてくるとか。
みなさんがそれぞれこの「ゼンゼントモダチ」というシングルを楽しんでくることを祈っています。もし、新しい発見があったらあなたの言葉で教えてください。
それではまた会う日まで。
アルダこと加藤基でした。